みずみずしく、真っ赤に熟したトマト。この赤みの正体は、今、特に注目を集めている有効成分、リコピンです。 病気や老化をもたらす活性酸素を除去する、強力な抗酸化作用を持つリコピンですが、「脳神経疾患の予防に対する予防効果」について発表されています。
それは、先ごろ開かれた日本神経化学学会で発表された、脳神経科学に詳しい藤田先生(桜花学園大学教授・藤田保健衛生大学医学部客員講師) と、リピンの研究に10年以上携わった方本先生(名古屋文理大学短期大学部栄養食物学科教授) による共同研究です。
脳神経疾患とは、認知症(ボケ)をはじめ脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)、パーキンソン病(手足が震える病気)などの病気で、脳の血管が詰まって発症するものや、いまだ原因が解明されていない病気もあります。
脳に血液が供給されない状態(脳虚血) に陥ると、脳の機能が低下して、手足のしびれやめまい、頭痛、記憶障害などの症状を引き起こします。血管の詰まりが一時的なものだった場合、血液が再び流れだすと、症状は治まりますが、このとき、活性酸素が多量に発生するのです。 脳虚血後に発生する多量の活性酸素は、脳の神経細胞に害をもたらします。そこで、抗酸化力の強いリコピンが、脳の神経細胞の害をへらすのに有効であるかを調べています。
脳に多量の活性酸素が発生すると、特に、記憶や認知をつかさかいばどる海馬(脳の器官) の神経細胞が、アポトーシス(死滅)を引き起こすそうです。そこで、海馬の神経細胞に対して、日常的に(毎日)摂取したリコピンが、どのような影響をもたらすかを、検証しました。 実験ではまずねずみを2つのグループに分け一方には通常の餌を毛一方にはリコピンを含む餌を与えました。 そして60日後にそれぞれのネズミに一時的な脳虚血を起こして、その後7日間にわたって海馬の神経細胞に関するデータ収集を行いました。
海馬には神経細胞のアポトーシスとかかわりの深い遺伝子のたんぱく質があります。そのたんぱく質の量を測定することで、アポトーシスの状態を確認できます。 実験の結果、リコピン入りのエサを摂取したネズミのグループは、通常のエサを摂取したネズミのグループより、遺伝子たんばく質の量が有意に増加しました。 つまり、海馬の神経細胞のアポトーシスが抑制されたことがわかります。
このほか、アポトーシスの引き金となる酵素(化学反応を促す物質) の量も調べました。
すると、リコピンを摂取したグループでは、酵素の量が減少していたのです。 また、細胞を染色して見比べても、明らかにアポトーシスが抑制されていました。 動物実験のレベルですが、リコピンの摂取が脳の神経細胞のアポトーシスを抑制したことが確認できました。今回の実験と、これまでに報告されたリコピンの研究結果から、あくまでも可能性として、脳梗塞や脳血栓、脳内出血など、一時的、部分的に脳の血流が阻害される病気の予防、改善に、リコピンが有効であることが考えられます。
海馬の神経細胞は、一度死滅すると再生しません。リコピンには、脳の神経細胞を保護する作用が大いに期待されるということです。 今回の動物実験で、リコピンの抗酸化作用が、脳に発生した活性酸素に対して有用であることが実証されました。このことから、 「リコピンを継続して摂取することは、認知症、脳梗塞、パーキンソン病などの脳神経疾患の予防や、脳虚血彼の症状の進行を遅らせる効果が期待できる」といいます。
また、海馬の神経細胞の害をおさえることで、記憶障害や認知障害を軽減する効果も大いに期待できJるそうです。では、効率よくリコピンを摂取す各には、どのようにすればいいのでしょうか。 トマトに多く含まれるリコピンは、過剰に摂取しても、体に害がないことがわかっています。とはいえ、トマトやートマトジュースで摂取する場合は、ほかの成分の影響も考えて、一度に多量に摂取するのは考えものです。 継続を念頭におき、1日当たり、リコピン二〇㌘叫程度を目安に摂取するといいそうです。これは、中玉のトマト二、三個、あるいは、トマトジュース20mgをとるだけで、じゆうぶんに摂取できる量です。 また、リコピンの効果を得るには、継続して摂取することが大切です。ちなみに、研究によると、糖尿病や心臓病、運動神経変性疾患などに対する、リコピンの予防効果も明らかになっています。 リコピンの持つ健康効果の可能性は、確実に広がっています。脳と体の健康のために、トマトを上手に利用して、注目の有効成分リコピンを積極的にとりたいものです