40~50年前、私が子どもの頃、田舎ではカレーライスが、ぜいたくな食事であった。われわれ子どもたちはカレーライスが毎日食べられたらどんなに幸福だろうと夢想した。
しかし、今日、この夢想は現実となった。
事実以上になったというべきかもしれぬ。カレーライスを毎日食べている人間は、それだけで貧乏である証拠とさえなった」まさに、「事実以上になった」という表現がぴったりくるほど、わが国の食生活はとてつもない変化をしてきました。
一言でいえば、食生活の欧米化、多様化ということになると思います。その原因の1つは、あらゆる穀類の消費量が減少しているにもかかわらず、小麦粉の消費量だけが増えていることにあるのではないでしょうか。
小麦粉は、米やトウモロコシなど、ほかの穀類と比較すると、その用途の広さに特徴があります。それは小麦粉に含まれるグルテンというタンパク質の性質によるものです。パンがふっくらとふくらんだり、うどんや中華麺にシコシコとした歯ごたえがあるのは、まさにこのグルテンの性質によるものなのです。
ざっと身の廻りを見ても、小麦粉を使った食材は、パン、ケーキ、クッキー、パイ、まんじゅう、うどん、マカロニ、スパゲッティ、中華麺、てんぷら、フライ、お好み焼き、ピザ、ギョウザなどじつにたくさんあります。
これらの食品を見れば、食生活の欧米化、多様化の大きな原因になっていることがわかると思います。
そして、もっとも大きな問題は、これらの食品に使われている小麦粉そのものが、白米と同じように真っ白になっていることです。
小麦は大きく見ると、表皮、胚芽、胚乳の部分に分けられますが、小麦粉はおもに胚乳の部分でつくられています。つまり、胚芽や表皮の部分はほとんどが使われていないわけです。そのことによって捨てられるビタミンやミネラル類はわずかの量です。
それゆえに微量栄養素と呼ぶわけですが、このわずかな量の積み重ねこそが問題で、まさにちりも積もれば山となるわけです。
パンと小麦粉の歴史について、「ひき臼、あるいは石臼は、今でも僻地で使われているが、イギリスでは、事実上1870年まで、これによって製粉が行われていた。穀物をひく方法が原始的であるということは、口にするパンやポリッジ( オートミルなどのかゆ) に、麦の胚がいっぱいに入っているということであった。
近代のローラー製粉は、粉砕にはずっと効率が簁そのほかの機械器具を使って、胚を効果的にふるい分けて、白い麦粉を残すことができるようになった。
白パンを食べることがはやりだし、白さが重んじられて、一層白い粉を供給する技術が、絶えず追求されるようになった。
ビクトリア朝の英国では、小麦粉とパンが主な食料源であり、貧しい人々にはことにそうであった。だが、精製法が改良された結果、小麦粉の組成に変化が起こった。それは、とりもなおさず1日の推定要求量で、ビタミンB1が半分に、ニコチン酸が3分の1に、鉄分が3分の1に減少したということであった。
もっとも影響を受けたのは貧しい人々で、お金のある人々と違って、ほかの食物でこうした損失を補うことができなかったのである。ドラモンドとウィルブリアムのような権威によれば、とくに女性の間にひどい貧血痛が蔓延したのは、胚を除いたことと、改良した食物の栄養の質の低下とが原因であった。
私たち日本人も、月に1~2度程度しかパンを食べない時代ならばその影響もたいした問題ではありませんが、これだけ小麦粉を使った食品を食べる現在では、その
影響力はかなりのものがあると考えるべきだと思います。
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